JFC ファクトチェック講座

ファクトチェックの考え方や技術、便利なツールの活用方法を実践的に学ぶ連載です。

JFCファクトチェック講座9:国際的な標準ルール 信頼性を確保する

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JFCファクトチェック講座9:国際的な標準ルール 信頼性を確保する

「ファクトチェック」を名乗りながら相手の意見をチェックしたり、自論の正当性を補強するための道具にしたりする例もあります。信頼されるファクトチェックとはどうあるべきか。国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は守るべき原則を公開しています。 IFCNが公開するの5つの原則 アメリカに本拠を置くIFCNは、世界中のファクトチェック組織のハブになっている組織です。ファクトチェックを実践する上で守るべき原則(Code of Principles)を公開し、遵守している組織が加盟できます。 IFCNに加盟しているかどうかが、国際的に認められる団体かどうかの試金石ともなっています。認証は毎年更新する必要があり、2023年5月21日現在、114の加盟団体が活動中です。 欧米だけでなく、アジア、アフリカなど世界中の団体が加盟していますが、残念ながら、日本からはいまだゼロです。半年以上の活動実績がある団体が申し込み可能で、日本ファクトチェックセンター(JFC)は現在、審査を受けているところです。 それでは、加盟団体が遵守を求められるIFCN5原則を一つずつ見ていきまし

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座8:公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす

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JFCファクトチェック講座8:公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす

オープンソース・インテリジェンス(OSINT)とは、一般公開されている情報を収集・分析し、活用する手法です。デジタル技術を用いて多くの情報がネットで公開されるようになり、取材だけでなくあらゆる調査にとって重要な技術であり、ファクトチェックでも多用します。解説します。 正しいものを正しいと検証するには 日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例に見ていきます。これは「なぜニュースにならないの?」 静岡県内の水害画像は本物、というJFCのファクトチェック記事です。 2022年9月の静岡県の水害では、前回の講座7で紹介したようにAIで作成した画像が「ドローンで撮影した静岡の様子」として拡散しました。JFCなどのファクトチェックもあり、本物の災害画像ではないという検証はできました。しかし、AI画像が出回ることで、「正しい画像」までも「これはAIによるフェイクでは」という疑心暗鬼が広がりました。 JFCでは、AIではないかという疑問が出ていた画像を検証し、それが実際の災害画像であることを証明しました。検証に活用したのは、誰でも無料で使えるGoogleマップです

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座7:AIコンテンツの検証 細部を見る

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JFCファクトチェック講座7:AIコンテンツの検証 細部を見る

AIで生成されたテキストや画像などのコンテンツが激増しています。その中から偽情報/誤情報をどう検証するかは、ファクトチェックにとって大きな課題です。現状では、自動で完璧に検知する万能ツールはまだ存在しません。では、人の目でどのように検証できるのか。解説します。 AIによる偽情報の実例 日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例に、解説していきます。これは「 ドローンで撮影された静岡県の災害」はAI作成の偽画像というJFCのファクトチェック記事です。 2022年9月に静岡県を襲った台風15号による水害をめぐって、「ドローンで撮影した画像」とされる3枚の写真がツイッター上で拡散しました。建物や木々が茶色い水に屋根近くまで浸かり、大規模な浸水被害が出ているように見えます。 結論から言うと、この3枚の画像はすべてAIで作成したもので、静岡県の水害とはまったく関係がないものでした。どうやって検証していったかを見ていきます。 拡大して細部を確認する 1枚目の写真を拡大してみます。右側と奥に山並み。手前に住宅地と木々の茂みが広がり、大規模に浸水している写真で

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座6:動画の検証 InVIDとYouTube検索

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JFCファクトチェック講座6:動画の検証 InVIDとYouTube検索

近年、特に増えているのが動画での偽情報/誤情報です。動画プラットフォームのYouTubeやTikTokを中心に、他のソーシャルメディアへも拡散していきます。画像と同じく、改変や文脈を変えてミスリードする事例が目立ちます。オリジナルを探すという対策も共通です。見ていきましょう。 その要約や翻訳は正しいのか 動画の誤情報/偽情報というと、最近話題のAIによるフェイク動画を想像する人が多いでしょう。しかし、多くは高度な技術など使われず、オリジナル動画の一部を切り抜き、違う文脈で使ってミスリードする単純なものです。 今回も日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例に、解説していきます。これはファイザー社長「私は健康だから(ワクチンを)絶対に打たない」と発言したというのは不正確というJFCのファクトチェック記事です。 米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)がワクチンに関するインタビューに答えた動画の一部を切り出して編集し、内容を捻じ曲げて翻訳したものです。まるで本人が「私は健康だからぜったい打たない」と言ったかのように読めます。 し

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座5:画像の検証 GoogleレンズとTinEye

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JFCファクトチェック講座5:画像の検証 GoogleレンズとTinEye

偽情報/誤情報で多いのが写真や動画を使ったものです。ツールの活用により、改変や捏造が簡単になったことや、もともとの意味とは異なる翻訳をつけてミスリードするものもあります。まずは画像を検証するために知っておくべき手法と便利なツールの利用法を解説します。 画像で騙す2つの手法 対策はオリジナル探し 「画像があるから事実だ」などということはありません。画像は簡単に改変ができるし、違った文脈で使えばミスリードするからです。 改変やミスリードへの対策として有効なのが、オリジナル画像を発見して比較することです。改変部分が見つかったり、全く違う文脈で利用されていることがわかったりします。 ここでも重要なのは検索の技術です。画像に映り込んでいる人物や背景から検索キーワードを想像し、期間を狭めて検索していくことでオリジナルの画像にたどり着くことができます。 ここでは、それよりも簡単にオリジナル画像を見つけられるツールを、日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例にして紹介します。 Googleレンズを利用する これはJFCが2023年4月に配信した「反原発デモ

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座4:実践的な検索技術 効率的にソースを探す

その他

JFCファクトチェック講座4:実践的な検索技術 効率的にソースを探す

「検証の4ステップ」で公的機関の発信を調べるにも、ソースを探すにも、最も役に立つのは「検索」です。インターネット利用者に必須の基本スキルですが、「サーチオペレーター」などの使いこなし方や便利な検索ツールの存在を知らない人がほとんどです。基礎から解説します。 検索の仕組みを理解する 皆さんは検索結果が並ぶ仕組みを知っていますか? ここでは最も利用され、様々な検索技術を活用して効率的にソースを探せるGoogleを例に解説していきます。 Googleには検索の仕組みについて詳しく説明しているページがあります。その中で検索結果がどのように選ばれているかについて触れているのが「ランキング結果」の項目です。 クエリとは、検索窓に打ち込む語句を指します。単語の組み合わせでも、文章でも構いません。Googleはそのクエリの意味を読み取り、関連性が高くて、質(専門性や権威性など)が良く、ユーザビリティ(読み込み速度など)が高いコンテンツを検索結果として順番に並べます。 コンテキスト(文脈)も重要です。Googleが例として挙げるのが「フットボール」。シカゴで検索するとアメ

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座3:検証の4ステップ 「横読み」で効率的に

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JFCファクトチェック講座3:検証の4ステップ 「横読み」で効率的に

今回は、情報の検証をする上で必要な行動を4段階に分けてお伝えします。これだけ情報が氾濫する中で、全てについて4つを実践するのは不可能だ、と感じる人もいるでしょう。ステップ1だけで十分なこともありますし、効率的に実践するための「ラテラル・リーディング(横読み)」も紹介します。 では、「検証の4ステップ」の解説から始めます。まずはこちらを御覧ください。 1.発信元を見る 「その発信元は信頼がおけるか」。あらゆる情報について発信元を確認しましょう。匿名でも信頼のおける情報源は存在しますが、まったく知らない匿名の情報源を信頼するのは危険です。 「その情報を知りうる立場か」というのは、一つの目安になります。事件や災害について、直接的な関係がない人、調査や取材に携わらない人が重要な情報を知っている可能性は低いでしょう。情報を知りうる立場でも、利害関係者の場合は自分に都合が良いように発信している可能性があります(客観的な情報発信をしている場合もあります)。 2.疑義の指摘を確認する 「リプライやコメント欄を確認」しましょう。改変された画像や動画などは、何度も拡散し

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座2 :検証は効果あり 検索やAIにも反映される

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JFCファクトチェック講座2 :検証は効果あり 検索やAIにも反映される

ファクトチェックは、どんな情報でも検証できるわけではありません。初回に説明したように、意見や憶測ではなく「提示された事実」だけが対象ですし、数量的なデータや信頼性の高い証拠がなければ検証は困難です。 それだけ限定された手法ながらも必須と言えるのはなぜか。検証可能なはずの偽情報/誤情報が蔓延し、信じてしまう人たちがいるからです。インフォデミック(情報汚染)とも呼ばれる現状について、ファクトチェックが役立つことを示すデータとともに解説します。 多くの人が偽情報/誤情報に接している 国際大学GLOCOMによる調査「Innovation Nippon 2022: わが国における偽・誤情報実態の把握と社会的対処の検討」は、2021年1~10月にファクトチェックされた偽情報/誤情報12件(コロナワクチン関連6件、政治関連6件)について、それぞれ、どれだけの人がそれらを目にし、正しい情報と信じたかを調べています。 「コロナワクチンを打つと不妊になる」「選挙機材大手『ムサシ』の大株主が安倍晋三元首相であり、不正が行われやすくなっている」など、保守・リベラルのバランスにも配

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座1:意見や推測ではなく事実を検証する

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JFCファクトチェック講座1:意見や推測ではなく事実を検証する

フェイクニュース、デマ、嘘、誤情報/偽情報...。呼び方は様々ですが、世の中には不正確な情報が溢れています。間違った情報を信じたり、拡散したりしないためには、基本的なファクトチェック(情報の検証)技術を学んでおく必要があります。 日本ファクトチェックセンター(JFC)の「ファクトチェック講座」では9回にわたって、ファクトチェックの基本的な考え方や便利なツールの紹介、新たな脅威として注目されるAIコンテンツへの対策まで解説します。 2016年のアメリカ大統領選が節目に まず、講師を勤める私とファクトチェックの関わりから紹介します。 ファクトチェックが世界的に注目されたきっかけの一つは、2016年のアメリカ大統領選です。「ローマ法王がトランプ候補を支持」「ヒラリー・クリントンはドナルド・トランプの立候補を望んでいた」など全く根拠のない偽情報が、CNNやNew York Timesなどの主流メディアの記事よりもFacebook上で拡散していた、とBuzzFeed Newsがスクープしました。 当時、BuzzFeed Japan創刊編集長だった私は、日本で

By 古田大輔(Daisuke Furuta)