「日本だけがウクライナに巨額の支援」は誤り 欧米諸国よりも少なくGDP比では支援国下位【ファクトチェック】

「日本だけがウクライナに巨額の支援」は誤り 欧米諸国よりも少なくGDP比では支援国下位【ファクトチェック】

ウクライナへの支援について「日本だけが巨額」という言説が拡散しましたが、誤りです。ドイツのシンクタンク「キール世界経済研究所」の統計によると、日本の累計支援額は世界で7番目で、日本(75億ユーロ)はアメリカ(677億ユーロ)の1割程度です。

検証対象

2024年2月8日、ウクライナへの支援について「日本だけが巨額の支援」というポストが拡散した。このポストは、2024年2月21日現在、140万回以上の表示回数と3400件以上のリポストを獲得している。

検証過程

各国からの支援額は

ドイツのシンクタンク「キール世界経済研究所」が、42の国・機関によるウクライナへの財政、人道、軍事分野での支援に関する統計を公開している。

同研究所が公開した資料によると、ウクライナへの侵攻が始まった2022年2月24日から2024年1月15日までの間、EUおよび各国が表明した累計支援額は2524億ユーロだという日本円にすると、約40兆3840億円(1ユーロ=160円で計算)だ。

機関・国家単位の支援額ではEU(849億ユーロ)とアメリカ(677億ユーロ)が突出し、全体の6割を占める(同研究所)。また支援3分野(財政、人道、軍事)に注目すると、EUはほとんどが財政支援(771億ユーロ)である一方で、アメリカは財政支援(240億ユーロ)よりも軍事支援(422億ユーロ)が多くを占めていることがわかる(同研究所)。

キール世界経済研究が公開している国・機関別のウクライナへの支援額

支援額の順位は、ドイツ(220億ユーロ)、イギリス(156億ユーロ)、デンマーク(87億ユーロ)、ノルウェー(75億ユーロ)、日本(75億ユーロ)、オランダ(62億ユーロ)などと続く。難民支援を含む支援額のGDP比で見るとエストニア(4.4%)が最も高く、ポーランド(4.0%)、ラトヴィア(2.6%)やデンマーク(2.6%)など、ウクライナに地理的に近い国々の名前が上位にくる(同研究所)。

日本からの支援額と最新動向は

ロシアのウクライナ侵攻以後、日本からのウクライナへの累計支援額は75億ユーロ(約1兆2000億円)で、42の機関・国のうち7番目だ。内訳では財政支援(55億ユーロ)が大半を占める。また、GDP比で見ると日本からの支援は0.17%で、42の機関・国のうち36番目だ。

日本からウクライナへの新たな支援は続いている。日本政府は2024年2月19日、ウクライナ政府と共同で「日・ウクライナ経済復興推進会議」を東京都内で開き、官民一体での長期にわたる支援を表明した(外務省)。

判定

ウクライナへの累計支援額では約3分の2をEUとアメリカで占め、日本は41か国・1機関(EU)のうちでも7番目の支援額だ。また、対GDPでは日本からの支援は36番目だった。したがって、「日本だけがウクライナに巨額の支援」は誤り。

検証:高橋篤史、本橋瑞紀
編集:古田大輔、宮本聖二

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