「救急車が有料になる」は不正確 一部の自治体における運用変更で費用負担のケースも 【ファクトチェック】

「救急車が有料になる」は不正確 一部の自治体における運用変更で費用負担のケースも  【ファクトチェック】

「何てことだ。『救急車を有料に』がついに現実となってしまった。救急車を呼べなくなってしまって命に関わるよ、これ。」という言説が拡散しましたが、不正確です。緊急・重症でないと医師が判断した人に対する、一部の自治体の限定的な運用です。救急車利用に対して一律に料金を支払うわけではありません。

検証対象

2024年1月20日、「何てことだ。「救急車を有料に」がついに現実となってしまった。救急車を呼べなくなってしまって命に関わるよ、これ。」など救急車利用が有料になるというポストがX(旧Twitter)で拡散した。

2024年1月24日現在、このポストは8000回以上リポストされ、1万以上の「いいね」がつき、表示回数は250万回を超える。

検証過程

こうした言説が拡散したのは、1月19日に三重県松阪市が「救急車で市内の3つの病院に搬送された傷病者のうち、入院に至らない軽症の人から7700円を6月1日から徴収する」と発表したことによる。

22日に、地元夕刊三重新聞読売新聞NHKがこの発表を報じている。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は松阪市健康づくり課に取材した。

「救急車で市内の3つの病院に搬送された人のうち、入院することのない軽症の人から病院が『選定療養費』として7700円を徴収することを決めました。ただし、かかりつけ医など他の病院からの紹介状を持っている人、生活保護受給世帯など公費負担医療制度の対象者のほか、医師が救急搬送する必要性を判断した傷病者は除きます」と担当者は説明する。

つまり、救急車の利用に対して市や消防が料金を取るわけではない。今回の制度を前提から説明すると、以下の通りだ。

松阪市内の3つの病院は「地域支援病院」に指定されている(三重県厚労省)。これは1997年に始まった「地域医療支援病院」制度によるもので、地域の開業医院やかかりつけ医との連携を進めて地域医療を支える目的で作られた。

2016年には健康保険法の改正によって、こうした200床以上の地域医療支援病院は、紹介状がない患者からは診療費とは別に「選定療養費」を徴収することが義務付けられた(厚労省資料)。初期の診療は地域病院で、高度・専門の医療は大きな病院で、という機能分担が目的だ。例外として、救急の患者や公費負担医療制度の対象者からは徴収しない。

松阪市はこれまで、救急車で搬送された人は一律この例外にあたる「救急の患者」としていた。今回、運用を見直して救急車で搬送した人のうち医師が緊急・重症でないと判断した人から病院が選定療養費7700円を徴収することにした。

これは、健康保険法改正の際、厚労省からの各都道府県への通知資料に「単に軽症の患者が救急車で来院、受診した場合は、救急の患者に該当しない、それは病院の個別の判断による」と記載されていることが根拠になっている(厚労省資料 医科44ページ)。

7700円は、これまでも地域支援医療病院が紹介状がなく救急ではない患者から徴収している金額だ。

また、救急搬送後の選定療養費は松阪市だけでなく、近隣では日本赤十字社伊勢赤十字病院(三重県伊勢市)や愛知県の豊川市民病院半田市立半田病院などはすでに徴収している。

判定

一部の自治体の運用変更で、緊急・重症でない人から選定療養費を病院が徴収することになったということで、全国一律に救急車に乗った人が代金を支払うような変更ではない。よって、「救急車が有料になる」は不正確と判定した。

あとがき

運用見直しの背景には、救急車の出動件数の急増があります。松阪市と近隣の二つの町をカバーする松阪地区広域消防組合の救急車出動件数は、2004年の約8000件が、2023年は1万6000件を超えたそうです。

松阪市の担当者は、現時点でも救急車が出払ってしまい遠方の消防署から出動しなければならないケースがあり、本当に必要とする緊急性の高い人に救急医療が届かなくなる恐れがあると説明します。

全国的に見ると、救急車の出動件数が増える一方で、軽症患者の救急搬送が半数近くを占めています(消防庁資料)。

検証:鈴木刀磨、高橋篤史、宮本聖二
編集:藤森かもめ、古田大輔、野上英文

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